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事務所通信2013年6月

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2013年6月号 『税務調査』

 先月、顧問先の税務調査があり、2日間税務調査に立ち会ってきました。
 今年から税務調査の手続きが変わっていますが、変わってから初めての税務調査の立会いで、結果は、指摘事項なしでした。
 そこで、今回は、『税務調査』について書きたいと思います。

1.税務調査とは? 
 税務調査とは、国税が質問検査権という権利を行使することです。
 質問検査権ついては、会社等には、調査を受けなければならない義務がありますので、税務調査をしたいと国税が言ってきたら、調査を拒否することはできないのです。
 税務調査には、以下の3つがあります。

 ①   課税処分のための調査(任意調査) 
 ②   滞納処分のための調査 
 ③   犯則事件のための調査(強制調査) 

2.税務調査の留意点
 税務調査における留意点を書きます。

 税務調査では、税理士法により、税理士以外の人が代理人として税務に関して主張することはできません。
 よって、通常は、顧問税理士が税務調査に立会います。顧問税理士がいない場合、取引銀行などに税理士を紹介してもらうと良いでしょう。


 税務調査は、原則として、事前に国税側から税務調査に行く旨の連絡があります。
 疑問を感じる点ではありますが、書面ではなく口頭です。
 また、日時を指定してきますが、立会人の都合も含めて都合が悪ければ、その旨を伝えると、都合の良い日に変えてくれます。
 事前に通知がない場合もありますが、任意調査であれば、いったん断わり、顧問税理士に連絡のうえ、都合の良い日を調整して調査日程を決めましょう。


 連絡があってから、税務調査が行われるまでは時間がありますので、書類などを確認し、不要なものや税務調査の対象となっていないもの(例えば、法人の調査で法人の金庫に保管している社長個人の通帳など)は、整理しておきましょう。


 税務調査では、質問されますが、聞かれたことだけ答えるようにしましょう。
 緊張のあまり必要以上のことしゃべり、指摘事項が増えることも多々あります。
 また、何気ない雑談でも、先方は何か探っています。


 分からない場合には、適当に答えるのではなく、「分かりません。」と言えばいいですし、調べれば分かるのであれば、「調べてから答えします。」と言えば大丈夫です。


 先方が文書を作成して、確認の署名と印鑑を求めてくることがあります。
 このような場合、署名・捺印をする義務はありませんので、基本的に断りましょう。
 署名・捺印するとしても、立会人に相談してからにしましょう。
 おそらく、調査官が十分な証拠を入手できていないので、署名・押印させているのでしょうから。


 税務調査においては、誰が、どのような質問をし、どのような調査をしたのかをきちんとメモしておきましょう。

3.最後に
 税務調査に慣れている方はあまりいないと思いますので、通常の心境で対応することはなかなか困難と言えるでしょう。
 そのような場合には、事前に留意点を把握しておけば、かなり落ち着くはずです。
 また、そう持って行くのも立ち会う税理士の役目ですし、悪い方向に行きそうなときにフォローするのが税理士ですので。

2013年6月21日 國村 年

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2013年5月号 『動産担保融資』

 最近、動産担保融資のことが、新聞などによく載っています。
 金融機関は、従来から、不動産を担保にとったり、保証人をつけたりして融資を行なってきました。ただ、不動産の価値が下がったり、不動産を持たざる経営になってきたり、保証人制度の見直しが検討されたり、金融機関も新たな方法で融資せざるをえなくなってきています。
 そこで、今回は、『動産担保融資』について書きたいと思います。

1.担保の現状
 現在、金融機関の融資の担保は、不動産担保が中心です。
 金融庁の資料によると、地域金融機関の場合、融資の担保の9割超が不動産担保のようです。また、我が国企業の保有資産の状況(平成23年度財務省「法人企業統計調査」)は、土地が186兆円に対し、在庫と売掛金の合計は297兆円もあるそうです。
 動産・売掛金担保は、あまり活用されていないのが現状といえるでしょう。

2.動産担保融資とは?
 動産担保融資とは、企業が保有する動産を担保とする融資のことであり、ABL(Asset Based Lending、動産・売掛金担保)の一種です。
 中小企業等が経営改善・事業再生等を図るための資金はもとより、新たなビジネスに挑戦するための資金を確保することが目下の重要な課題であり、動産担保の一層の活用が図られれば、このような資金がより円滑に確保され、中小企業等の経営改善や事業の拡張等に資することが期待されます。

3.金融検査マニュアルの運用明確化
 金融検査マニュアルが改定され、ABLに関することが織り込まれています。
 例えば、「自己査定基準」には、担保掛け目を盛り込む必要があるため、「動産・売掛金担保」の標準的な掛け目の水準が新たに記載されています。
ちなみに、動産担保は評価額の70%、売掛金担保は80%となっています。

4.動産担保の具体例
 動産担保の具体例としては、例えば、鹿児島銀行は、牛と豚が担保の融資残高は約170億円にのぼるそうです。
 また、みちのく銀行は、1万トンのリンゴを担保に約4億円の融資をしているようです。また、これ以外にも、米や日本酒、冷凍ホタテを担保にした融資を積極的に手掛けているようです。
 さらに、動産担保融資は地方の話しだけではなく、三菱東京UFJ銀行など9行が、東京の銀座に店を構える中古ブランド品販売店のブランド品を担保に30億円の融資枠を設定しているようです。

5.最後に
 本来、金融機関は、不動産担保をとったり、保証人をつけるのではなく、将来のキャッシュ・フローを担保に融資をすべきだと思いますが、残念ながら、それを見極めることができていないのが現状です。
 金融機関は融資をビジネスとしているのに、非常に疑問を感じます。
 その点、動産担保融資は、将来的にキャッシュ・フローを生むはずのものを担保に融資するわけですから、少しは進歩したということでしょうか。
 早く将来のキャッシュ・フローを担保に融資する時代が来て欲しいものですね。

2013年5月21日 國村 年

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事務所通信2013年4月

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2013年4月号 『節税と脱税と租税回避』

 最近、自民党議員の迂回寄付の記事が新聞紙上を賑わせています。
 議員から政党支部への寄付、政党支部から後援会や資金管理団体への寄付というそれぞれの行為は問題ないかもしれません。
 ところが、一連の行為を見ると、議員から後援会や資金管理団体への寄付と考えられ、租税回避行為であると思われます。
 そこで、今回は、『節税と脱税と租税回避』について書きたいと思います。

1.政党等寄附金特別控除制度
 個人が平成26年12月31日までに支払った政党または政治資金団体に対する政治活動に関する寄附金で一定のものについては、支払った年分の所得控除としての寄附金控除の適用を受けるか、または以下の算式で計算した金額(その年分の所得税額の25%相当額が限度)について税額控除の適用を受けるか、いずれか有利な方を選択することができます。

(その年に支払った政党などに対する寄附金の合計額―2,000円)×30%

 ただし、「その年に支払った政党などに対する寄附金の合計額」は、総所得金額等の40%相当額が限度とされています。
 ここで、「一定のもの」とは、政治資金規正法に規定する政党及び政治資金団体に対する政治活動に関する寄附(同法の規定に違反することとなるもの及びその寄附をした人に特別の利益が及ぶと認められるものを除く。)で、政治資金規正法の規定による報告書により報告されたものをいいます。

2.節税
 合法的に、異常な行為形式を用いず、税負担を軽減することを言います。
 使えば得、使わないと損というものです。
 税理士にとって、腕の見せ所でしょう。
 税金を削減できるものと課税の繰り延べ、キャッシュ・アウトを伴うものとそうでないものの4つの組み合わせがあります。 

    課税の繰延   税金の削減 
 キャッシュ・アウトを伴う   ケース1   ケース2 
 キャッシュ・アウトを伴わない   ケース3   ケース3 

3.脱税
 違法な方法で税負担の軽減を図ることを言います。
 やってはいけないことで、税務調査等で明らかになると、ペナルティが課されます。
 税理士は、脱税の手助けはしません。

4.租税回避
 法律上、定義があるわけではなく、一般的に、以下のようなものであると言われています。

 ①   異常な行為形式を利用し、 
 ②   通常の行為形式を利用するのと同様の経済的効果を得ながら、 
 ③   税負担を軽減すること 

 合法的な行為であり犯罪ではありませんが、これを認めると納税者間で著しく不公平なため、認められないというものです。
 実際には、租税回避に該当するかという判断は難しく、税法に具体的に租税回避の例が規定されているわけではなく、結局、租税回避かどうかという判断は、国税局や税務署や裁判所が行うことになります。
 拠り所としては、通常行う行為であれば『節税』、通常行わない行為であれば『租税回避』となるでしょう。

5.最後に
 記事を見るたび、このような人たちに政治を任せておいて良いのか不安になります。
 また、民主党と異なり、税制改正が公な場ではなく、閉ざされた場で検討されており、自分たちに都合の悪い税制改正が行われると思われません。
 公な場で議論して欲しいものです。

2013年4月19日 國村 年

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事務所通信2013年3月

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2013年3月号 『平成25年度税制改正法人税ほか編~』

 平成25年1月24日に、平成25年度税制改正大綱が公表されました。
 基礎控除額の見直し、税率構造の見直し、相続時精算課税制度の適用要件の見直し、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の見直し、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置など相続税・贈与税に関する改正に注目が集まっていますが、法人に関するものも、該当する企業にとっては影響の大きい改正があります。
 そこで、今回は、『平成25年度税制改正~法人税ほか編~』について書きたいと思います。

1.国内設備投資を促進するための税制措置の創設(H25/4~H27/3)
 青色申告書を提出する法人が取得等をした国内の事業の用に供する生産等設備で、その事業年度終了の日において有するものの取得価額の合計額が以下の①及び②の金額を超える場合において、その生産等設備を構成する資産のうち機械装置をその法人の国内にある事業の用に供したときは、その取得価額の30%の特別償却とその取得価額の3%の税額控除との選択適用ができます。
 ただし、税額控除における控除税額は、当期の法人税額の20%が限度です(所得税も同様。)。

 ①   当期の償却費として損金経理した金額 
 ②   前事業年度において取得等をした国内の事業の用に供する生産等設備の取得価額の合計額の110%相当額 

2.企業による雇用・労働分配(給与等支給)を拡大するための税制措置の創設(H25/4~H28/3)
 青色申告書を提出する法人が国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、その法人の雇用者給与等支給増加額(雇用者給与等支給額から基準雇用者給与等支給額を控除した金額)の基準雇用者給与等支給額に対する割合が5%以上であるとき(一定の場合に限る。)は、その雇用者給与等支給増加額の10%の税額控除ができます。
 ただし、控除税額は、当期の法人税額の10%(中小企業者等は、20%)が限度です(所得税も同様。)。

3.中小企業等の経営改善に向けた設備投資を促進するための税制措置の創設(H25/4~H27/3)
 青色申告書を提出する中小企業等で経営改善に関する指導及び助言を受けたものがその指導及び助言を受けて行う店舗の改修等に伴い器具備品及び建物附属設備の取得等をして指定事業の用に供した場合には、その取得価額の30%の特別償却とその取得価額の7%の税額控除との選択適用ができます。
 ただし、税額控除における控除税額は当期の法人税額の20%が限度で、控除限度超過額は1年間の繰越しができます(所得税も同様。)。

4.試験研究を行った場合の法人税額の特別控除制度(研究開発税制)の見直し
 試験研究費の総額に係る税額控除制度、特別試験研究費の額に係る税額控除制度、繰越税額控除限度超過額に係る税額控除制度、中小企業技術基盤強化税制及び繰越中小企業者等税額控除限度超過額に係る税額控除制度について、2年間の時限措置として、控除税額の上限を当期の法人税額の30%(現行20%)に引き上げます。
 また、特別試験研究費の範囲に一定の契約に基づき企業間で実施される共同研究に係る試験研究費等を加えます(所得税も同様。)。

5.雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除制度(雇用促進税制)の拡大
 雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除制度(雇用促進税制)について、税額控除限度額を増加雇用者数1人当たり40万円(現行20万円)に引き上げるほか、適用要件の判定の基礎となる雇用者の範囲について所要の措置を講じます(所得税も同様。)。

6.交際費等の損金不算入制度における中小法人に係る損金算入の特例の拡大
 交際費等の損金不算入制度における中小法人に係る損金算入の特例について、定額控除限度額を800万円(現行600万円)に引き上げるとともに、定額控除限度額までの金額の損金不算入措置(現行10%)を廃止します。

7.特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入制度等の制限対象の見直し(支配関係がH25/4~)

  • 特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入制度について、対象となる特定資産の範囲に、特定適格組織再編成等を行った法人がその特定適格組織再編成等の日以前に行われた他の特定適格組織再編成等によりその法人と支配関係がある他の法人から移転を受けた一定の資産を加えます。
  • 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除制度について、支配関係がある法人間でみなし共同事業要件を満たさない適格合併等が行われた場合において引継ぎが制限される被合併法人等の欠損金及びないものとされる合併法人等の欠損金の範囲に、一定の金額を加えます。

8.土地の売買による所有権の移転登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置
 ここから以下は法人税でありませんが、法人に関するものとして挙げます。
 土地の売買による所有権の移転登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置の適用期限を2年(平成27年12月31日まで)延長します。

9.不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の税率の特例措置
 不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の税率の特例措置について、その適用期限を5年延長した上、平成26年4月1日以後に作成される文書に係る税率を最高で6万円引き下げます。

10.金銭または有価証券の受取書(H26/4~)
 金銭または有価証券の受取書(いわゆる領収書)のうち記載された受取金額が5万円未満(現行3万円未満)だと、印紙税が課されません。

11.最後に
 新聞や雑誌などでよく取り上げられている相続税・贈与税を始め、平成25年度税制改正は増税のイメージがあります。
 しかしながら、法人税については減税方向なのです。
 現在、赤字企業が多い中、法人税額がベースとなっているものが多いので使えない企業も多いかもしれませんが、該当する企業にとっては非常にありがたい改正です。
 接待交際費もそれなりに影響はあるでしょう。
 登録免許税印紙税も1件当たりは少額だとしても、合計すると意外と多額になりますので、良い改正だと思われますね。

2013年3月28日 國村 年

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事務所通信2013年2月

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2013年2月号 『平成25年度税制改正所得税編~』

 平成25年1月24日に、平成25年度税制改正大綱が公表されました。
 基礎控除額の見直し、税率構造の見直し、相続時精算課税制度の適用要件の見直し、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の見直し、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置など相続税・贈与税に関する改正に注目が集まっていますが、所得税にもあまり取り上げられていませんが影響の大きい改正があります。
 そこで、今回は、『平成25年度税制改正~所得税編~』について書きたいと思います。

1.所得税の最高税率の見直し(H27/1~)
 現行の所得税の税率構造に加えて、課税所得4,000万円超について45%の税率が設けられます。

 課税所得金額   現行税率   現行控除額   改正案税率   改正案控除額 
 ~195万円   5%   0円   5%   0円 
 195万円~330万円   10%   97,500円   10%   97,500円 
 330万円~695万円   20%   427,500円   20%   427,500円 
 695万円~900万円   23%   636,000円   23%   636,000円 
 900万円~1,800万円   33%   1,536,000円   33%   1,536,000円 
 1,800万円~4,000万円   40%   2,796,000円   40%   2,796,000円 
 4,000万円~   40%   2,796,000円   45%   4,796,000円 

 課税所得金額が4,000万円超の場合、増税となりますが、この影響を受ける方はごく僅かでしょう。

2.株式等に係る譲渡所得等の分離課税の改組
 株式等に係る譲渡所得等の分離課税について、上場株式等に係る譲渡所得等と非上場株式等に係る譲渡所得等を別々の分離課税制度とした上で、
 イ.特定公社債等及び上場株式等に係る譲渡所得等の分離課税
 ロ.一般公社債等及び非上場株式等に係る譲渡所得等の分離課税
とに改組されます。
 M&Aなどの際に、非上場株式の譲渡益(もしくは譲渡損)が生じた場合には、上場株式の譲渡損(もしくは譲渡益)を作って節税するということが行われてきましたが、封じられるようです。

3.非課税口座(日本版ISA)を開設することができる期間の延長
 非課税口座を開設することができる期間を、現行の平成26年1月1日から平成28年12月31日までを、平成26年1月1日から平成35年12月31日までとします。
 3年間だったのが、10年間になります。

4.上場株式等の配当等及び譲渡所得等の軽減税率の廃止
 上場株式等の配当等及び譲渡所得等に係る10%軽減税率(所得税7%、住民税3%)は、平成25年12月31日をもって廃止されます。
 優遇されていましたが、20%となります。金額は限定されますが、一方で、3.の日本版ISAが設けられます。

5.同族会社が発行した社債の利子でその同族会社の役員等が支払を受けるものの改正
 一般公社債等の利子等については、20%源泉分離課税を維持します。
 ただし、同族会社が発行した社債の利子でその同族会社の役員等が支払を受けるものは、総合課税の対象とします。
 貸付金の利息は雑所得として最高50%の税率、私募債の利息は20%の源泉分離課税であることを利用した節税が行われていましたが、封じられます。

6.住宅借入金等の所得税額の特別控除の適用期限の延長
 住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除について適用期限(平成25年12月31日)を平成29年12月31日まで4年延長するとともに、以下の措置を講じます。
イ.一般の住宅の場合

 居住年   借入限度額   控除率   各年の控除限度額   最大控除額 
 平成26年1月~3月   2千万円   1.0%   20万円   200万円 
 平成26年4月~平成29年12月   4千万円   1.0%   40万円   400万円 

ロ.認定住宅の場合

 居住年   借入限度額   控除率   各年の控除限度額   最大控除額 
 平成26年1月~3月   3千万円   1.0%   30万円   300万円 
 平成26年4月~平成29年12月   5千万円   1.0%   50万円   500万円 

 4年延長され、控除額も大きくなります。

7.相続財産に係る株式をその発行した非上場会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例の適用範囲の拡大(H27/1~)
 相続財産に係る株式をその発行した非上場会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例の適用対象者の範囲に、相続税法等において相続または遺贈により非上場株式を取得したものとみなされる個人を加えます。
 思いもよらず高額となるみなし配当ではなく、20%の税率で済む非上場株式の譲渡所得とされる特例の適用範囲が拡大されるということです。

8.最後に
 新聞や雑誌などでも相続税・贈与税の増税は頻繁に取り上げられていますが、所得税もこっそりと改正されているという感があります。
 特に、2.の上場株式と非上場株式の譲渡益と譲渡損の通算によって節税を図ること、5.の貸付金を私募債に変えることによって所得区分を変え税率差を利用して節税を図ることは、税理士として当然のアドバイスとして行われてきたものです。
 こういった改正が行われたりしますので、税制改正をウォッチし、一度行われた節税対策も定期的に見直す必要がありますね。

2013年2月27日 國村 年

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事務所通信2013年1月

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2013年1月号 『平成25年度税制改正~相続税・贈与税編~』

 平成25年1月24日に、平成25年度税制改正大綱が公表されました。そして、平成25年1月29日に閣議決定されました。
 わが国の経済は、円高・デフレ不況が長引いていますが、これまでのいわば「縮小均衡の分配政策」から、「成長と富の創出の好循環」へと転換させ「強い経済」を取り戻すことに全力で取り組まなければなりません。この断固たる決意のもとに、平成25 年度税制改正においては、従来型の発想にとらわれず、民間投資や雇用を喚起し持続的成長を可能とする成長戦略に基づく、政策税制措置をこれまでになく大胆に講じたようです。
 様々な改正が織り込まれていますが、その中で、相続税・贈与税について興味を持たれている方が多いのではないでしょうか。
 そこで、今回は、『平成25年度税制改正~相続税・贈与税編~』について書きたいと思います。

1.相続税の基礎控除の見直し(H27/1~)

    現 行   改正案 
 定額控除   5,000万円   3,000万円 
 法定相続人比例控除   1,000万円×法定相続人数   600万円×法定相続人数 

 つまり、現行の6割に縮小するため、相続税が課税される方が増加するということです。

2.相続税の税率構造の見直し(H27/1~)

    現行税率   現行控除額   改正案税率   改正案控除額 
 1,000万円以下の金額   10%   ―   10%   ― 
 3,000万円  〃   15%   50万円   15%   50万円 
 5,000万円  〃   20%   200万円   20%   200万円 
 1億円    〃   30%   700万円   30%   700万円 
 2億円    〃   40%   1,700万円   40%   1,700万円 
 3億円    〃   40%   1,700万円   45%   2,700万円 
 6億円    〃   50%   4,700万円   50%   4,200万円 
 6億円超の金額   50%   4,700万円   55%   7,200万円 

 つまり、高額になると増税になるということです。

3.相続時精算課税制度の対象外の贈与財産に係る贈与税の税率構造の見直し(H27/1~)
 以下の2つに分けて適用されます。
 ア.20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた財産
 イ.ア以外の贈与財産

    現  行 
 税 率 
 現  行 
 控除額 
 改正案ア 
 税 率 
 改正案ア 
 控除額 
 改正案イ 
 税 率 
 改正案イ 
 控除額 
 200万円以下の金額   10%   ―   10%   ―   10%   ― 
 300万円〃   15%   10万円   15%   10万円   15%   10万円 
 400万円〃   20%   25万円   15%   10万円   20%   25万円 
 600万円〃   30%   65万円   20%   30万円   30%   65万円 
 1,000万〃   40%   125万円   30%   90万円   40%   125万円 
 1,500万〃   50%   225万円   40%   190万円   45%   175万円 
 3,000万〃   50%   225万円   45%   265万円   50%   250万円 
 4,500万〃   50%   225万円   50%   415万円   55%   400万円 
 4,500万円超の金額    50%   225万円   55%   640万円   55%   400万円 

 つまり、税率が下がるところと上がるところがあるということです。
 分岐点は、アの場合は8,410万円、イの場合は3,610万円となっています。

4.相続時精算課税制度の適用要件の見直し(H27/1~)

  • 受贈者の範囲に、20 歳以上である孫(現行 推定相続人のみ)が追加されます。
  • 贈与者の年齢要件を60 歳以上(現行 65 歳以上)に引き下げます。

 つまり、要件が緩和されるということです。

5.小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の見直し(アとイはH27/1~、ウとエはH26/1~)
 ア.特定居住用宅地等に係る特例の適用対象面積を330 ㎡(現行 240 ㎡)までの部分に拡充します。
 イ.特例の対象として選択する宅地等のすべてが特定事業用等宅地等及び特定居住用宅地等である場合には、それぞれの適用対象面積まで適用可能とします。なお、貸付事業用宅地等を選択する場合における適用対象面積の計算については、現行どおり、調整を行うこととします。
 ウ.一棟の二世帯住宅で構造上区分のあるものについて、被相続人及びその親族が各独立部分に居住していた場合には、その親族が相続または遺贈により取得したその敷地の用に供されていた宅地等のうち、被相続人及びその親族が居住していた部分に対応する部分を特例の対象とします。
 エ.老人ホームに入所したことにより被相続人の居住の用に供されなくなった家屋の敷地の用に供されていた宅地等は、以下の要件が満たされる場合に限り、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていたものとして特例を適用します。

  • 被相続人に介護が必要なため入所したものであること。
  • 当該家屋が貸付け等の用途に供されていないこと。

 つまり、面積が拡充され、併用が可能になり、一棟の二世帯住宅の被相続人の居住していた部分だけではなくその親族が居住していた部分も対象となり、老人ホームに入所していても一定の要件を満たせば適用できるということです。

6.教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置(H25/4/1~H27/12/31)
 受贈者(30歳未満の者に限る。)の教育資金に充てるためにその直系尊属が金銭等を拠出し、金融機関(信託会社(信託銀行を含む。)、銀行及び金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者に限る。)をいう。)に信託等をした場合には、信託受益権の価額または拠出された金銭等の額のうち受贈者1人につき1,500万円(学校等以外の者に支払われる金銭については、500万円を限度とする。)までの金額に相当する部分の価額については、平成25年4月1日から平成27年12月31日までの間に拠出されるものに限り、贈与税を課さないこととします。
 なお、教育資金とは、文部科学大臣が定める以下の金銭をいいます。

  • 学校等に支払われる入学金その他の金銭
  • 学校等以外の者に支払われる金銭のうち一定のもの

 つまり、従来も授業料などの贈与については贈与税は非課税でしたが、一括して贈与しても贈与税が非課税となるということです。

7.最後に
 改正されなかった平成23年度税制改正大綱に取り上げられていたもののうち、今回改正とならなかったものがあります。それは、死亡保険金に係る非課税限度(生計を一にしていた者)です。
 一方、取り上げられていなかったもののうち、今回改正になったものがあります。それは、5. 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の見直しと6. 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置です。
 税制改正を考慮のうえ、財産等を洗い出したうえ、適用時期を確認し、『争族』とならないような望ましい対応を行うことが必要ですね。

2013年1月30日 國村 年

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事務所通信2012年12月

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2012年12月号 『103万円にこだわる必要はあるのか?』

 皆さんは、『103万円を超えると扶養を外れる。』ということを聞いたことが一度や二度あることでしょう。
 これを超えないように、パートの収入を調整している方も多いことでしょう。
 しかしながら、必ずしも、103万円にこだわる必要はないのです。
 そこで、今回は、『103万円にこだわる必要はあるのか?』について書きたいと思います。

1.103万円ってなぜ半端な金額なのか?
 まず、給与等の収入がある場合、給与所得の計算上、給与等の収入金額に応じて一定の金額を引いてもらえる給与所得控除額というものがあります。この最低額が65万円です。
 また、所得税の計算上、必ず引いてもらえる基礎控除額というものもあります。これが一律38万円です。
 つまり、この2つ(65万円と38万円)を足すと103万円となり、他の所得がなければ、給与等の収入が103万円以下であれば、所得が発生しないことになるのです。

2.130万円の壁
 103万円の壁のほかに、130万円の壁があります。
 給与等の収入が103万円を超えると、配偶者が配偶者控除(一律38万円)を使えなくなりますが、141万円未満であれば、配偶者特別控除というものを使えます。
 配偶者特別控除は、配偶者の所得金額に応じて、一定の金額の所得控除が受けられるものです。
 配偶者特別控除を受けるための要件としては、以下の2つがあります。

  1. 控除を受ける人のその年における合計所得金額が1千万円以下であること
  2. 配偶者が、以下の5つすべてに当てはまること
  • 民法の規定による配偶者であること(内縁関係は該当しない)
  • 納税者と生計を一にしていること
  • 青色申告者の事業専従者としてその年を通じ一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと
  • ほかの人の扶養親族となっていないこと
  • 年間の合計所得金額が38万円超76万円未満であること

 一方、サラリーマンの配偶者の場合、給与等の収入が130万円を超えると、扶養を外れて、社会保険料がかかることになってしまいます。
 しかしながら、社会保険に加入するメリットもあるのです。
 まず、老後の厚生年金が増えます。
 さらに、傷病手当金、出産手当金などももらえます。
 それゆえ、扶養を外れて保険料の負担が増加するのを避けるため労働時間を意図的に抑える方も多いのですが、実際には、保険加入のメリットも考えて判断する必要があるのです。

3.最後に
 世の中にはイメージが先行して、何となくそうしているものの、実際には損をしていることもあります。
 優秀な方が意図的に労働時間を抑えていることが、企業にとってマイナスかもしれませんし、一度、どうするのが有利なのかを検討してみるのも良いかもしれませんね。

2012年12月21日 國村 年

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2012年11月号 『小切手を受け取ったらどうする?』

 皆さんは、『小切手』を受け取ったことがありますか。
 ドラマで好きな金額を書いてくれて構わないと言っているシーンを見たり、海外でトラベラーズチェックを使ったりしたことのある方は多いかもしれません。
 しかしながら、実際に初めて受け取った時は、おそらく、どうしたらよいのか分からないのではないでしょうか。
 そこで、今回は、『小切手を受け取ったらどうする?』について書きたいと思います。

1.小切手とは?
 小切手とは、小切手法に基づき、銀行などの支払場所において、持ち主または名宛人に対し、振出人の預貯金口座から券面に表示された金額の支払いを約束する証券のことです。
 小切手は、以下の記載がないと、効力が生じないことになっています。

  • 小切手であることを示す文字
  • 一定金額の単純な支払委託文句
  • 支払人(金融機関の名称)
  • 支払地(支払人の住所)
  • 振出日
  • 振出地
  • 振出人の署名

2.小切手の種類
 一般的に、以下の2つがあります。
 ①小切手の表面に2本の平行の線が引かれ、その間に、銀行や銀行渡りやBankなどと書かれている小切手(いわゆる一般線引小切手)
 ②線引でない小切手

 ②の線引ではない小切手は、銀行などに持ち込むと誰(例えば、拾った人や盗んだ人)であっても支払われます。
 よって、紛失や盗難を防ぐために、通常は、いったん口座に入金し誰に支払ったかが分かる①の一般線引小切手が用いられます。

3.小切手を受け取ったら?
 線引ではない小切手の場合、銀行などに持ち込めば、すぐに換金できます。
 一般線引小切手の場合、裏面に振出人の署名捺印(いわゆる裏書)をしてもらえれば、小切手に記載された支払場所に持ち込めば、手数料もかからず、すぐに換金できます。
 ただし、この場合には、線引ではない小切手と同様に、紛失や盗難のリスクが生じます。
 裏書のない一般線引小切手の場合、小切手に記載された支払場所以外でも、そこに持ち込めば、口座に入金されます。
 ただし、口座上、残高は増えますが、すぐに引き出せるわけでなく、一般的に2営業日後の午後から引き出しが可能になります。
 また、小切手に記載された支払場所に持ち込んだ場合を除き、手数料がかかります。

4.不渡り
 小切手を銀行などに持ち込んでも振出人の口座に残高がないと、不渡りになります。
 このような場合、当然、口座から引き出すことはできませんので、小切手を受け取ったからといって安心はできないのです。

5.最後に
 小切手も、知識がないと何か問題が生じることがあります。
 経営者の方などは、色々な知識が必要なので、日々勉強が必要ですね。

2012年11月2日 國村 年

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2012年10月号 『税務調査が変わる』

 皆さんは、『税務調査』を受けたことがありますか。
 初めての時は緊張するでしょうし、何度受けても受けたくない人が大半でしょう。
 この『税務調査』が、平成25年1月から変わるのです。
 そこで、今回は、『税務調査が変わる』について書きたいと思います。

1.税務調査とは?
 所得税法人税・相続税を始めとする国税の多くは、納税者自身が申告を行って税額を確定させ、この税額を自ら納付する申告納税制度が採られています。
 しかし、自身で申告する以上、その内容や税額に誤りが生じたり、虚偽の申告により不当に納税を免れられる恐れがあります。
 よって、誤った申告が横行し、納税者間に課税の不公平感が生じないよう、国税庁及びその管轄組織により、納税義務が適正に果たされていないと認められる納税者に対して、その誤りを正すために行われます。

2.税務調査手続きの改正
 今般、改正が行われますが、基本的には、税務調査が従来と比べて大きく変化することはありません。
 改正の概要は、以下のとおりです。
①税務調査手続の明確化(H25.1.1~)
 税務調査手続について、以下のとおり、現行の運用上の取扱いが法令上明確化されました。

  • 税務調査に先立ち、課税庁が原則として事前通知を行います。ただし、課税の公平確保の観点から、一定の場合には事前通知を行いません。これについては、平成24年10月1日から先行実施しています。
  • 課税庁の説明責任を強化する観点から、調査終了時の手続を整備しました。
  • 納税者から提出された物件の預かりの手続のほか、課税庁が帳簿書類その他の物件の「提示」「提出」を求めることができることを法令上明確化しました。

②更正の請求期間の延長等(H23.12.2~)
 納税者が申告税額の減額を求めることができる「更正の請求」の期間が原則1年から5年に延長されました。
 併せて、課税庁による増額更正の期間が原則3年から5年に延長されました。

③処分の理由附記等(H25.1.1~)
 全ての処分(申請に対する拒否処分及び丌利益処分)について理由附記を実施することとされました。
 ただし、現在記帳・帳簿等保存義務が課されていない個人の白色申告者に対する理由附記については、記帳・帳簿等保存義務の拡大と併せて平成26年1月1日以後に行う処分から実施されます。

3.改正のポイント
 改正の目玉は、事前通知と理由附記です。
 今までも8割以上は事前に通知していましたが、裁量に委ねられていたのが、今後は原則として義務になります。
 また、追徴課税(更正処分)の際に、今までは理由が示されませんでしたが、今後は原則として理由が附記されます。

4.最後に
 従来は、業務に差し支えることもありましたし、今後は、不服がある場合も反論がしやすくなると考えられます。
 今までが裁量に委ねられていたのが不思議ですが、納税者権利憲章は成立しなかった一方、事前通知や理由附記が原則義務化されたことは大きな前進ですね。

2012年10月10日 國村 年

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2012年9月号 『家なき子』

 皆さんは、『家なき子』と聞いて、何を思い浮かべますか。
 安達祐実さんや坂口良子さん主演のテレビドラマを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
 この『家なき子』ということばが、最近、税務においても使われているのです。
 そこで、今回は、『家なき子』について書きたいと思います。

1.小規模宅地の特例
 個人が相続または遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において被相続人等(被相続人または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族)の事業の用に供されていた宅地等(土地または土地の上に存する権利で、建物または構築物の敷地の用に供されているもの。ただし、棚卸資産及びこれに準ずる資産に該当しないものに限る。)または被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分(以下「小規模宅地等」という。)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額できます。
 この特例を小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例といいます。いわゆる「小規模宅地等の特例」です。
 なお、相続開始前3年以内に贈与により取得した宅地等や相続時精算課税に係る贈与により取得した宅地等については、この特例の適用を受けることはできません。

2.家なき子
 小規模宅地等の特例のうち、特定居住用宅地(相続開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等)については、240㎡までその評価額が80%減額されます。
 しかしながら、配偶者以外が取得する場合には、一定の要件があります。

 ①   被相続人と同居していた親族で、相続開始の時から相続税の申告期限まで、引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を有している人 
 ②   被相続人と同居していない親族で、被相続人の配偶者または相続開始の直前において被相続人と同居していた一定の親族がいない場合において、被相続人の親族で、相続開始前3年以内に日本国内にある自己または自己の配偶者の所有する家屋に居住したことがなく、かつ、相続開始の時から相続税の申告期限までその宅地等を有している人 
 ③   被相続人と生計を一にしていた親族で、相続開始の直前から相続税の申告期限まで、引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を有している人 

 上記の②に該当する方を、税務上、「家なき子」と呼んでいるのです。
 よって、田舎の実家にご両親が住んでいて、都会でお子さんが持ち家に住んでいる場合には、小規模宅地等の特例が使えませんので、小規模宅地等の特例を使うためには、早めに持ち家を売却したり、賃貸住宅として貸す必要があります。

3.最後に
 「家なき子」でなくても、以前は、小規模宅地等の特例は使えていました。
 既に対策済みと考えていたものが、税制改正により使えなくなることもありますので、定期的な点検をお薦めします。

2012年9月20日 國村 年