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事務所通信2011年10月

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2011年10月号 『内部統制の限界』

 ここ数日、大王製紙の元会長の多額の借入金や、オリンパスの買収時の買収価格・報酬の不透明さが新聞等で取り上げられています。
 ともに、内部統制の限界が露呈した話しです。
 今回は、『内部統制の限界』をテーマに書きたいと思います。

1.『内部統制』とは
 色々定義はありますが、『内部統制』とは、『企業などの組織において、違法行為や不正、ミスやエラーなどが行われることなく、組織が健全かつ効果的・効率的に運営されるように各業務において所定のルールや手続きを定め、それに基づいて管理などを行うこと』をいいます。

2.『内部統制の限界』
 上記の目的を達成するための一連の仕組みを『内部統制システム』といいます。
 当然、会社が仕組みを作ることになりますので、会社の経営者が責任を負って仕組みを作ることになります。
 それゆえ、いくら良いシステムを作ったとしても、経営者が内部統制を無視すると、内部統制が有効に機能しないということになります。
 これが、『内部統制の限界』です。

3.大王製紙
 新聞記事等によりますと、元会長が取締役会等の承認を得ることなく、個人的に子会社から多額の借り入れを行っています。
 多額の貸付けを行う場合、会社法の規定により、取締役会決議が必要となります。
 よって、本来、取締役会決議が必要であり、これにより経営者が勝手に資金を貸し付けたりするのを防ぐことができますが、サラリーマンがオーナーから頼まれると、通常は、おかしいと思っても貸し付けるでしょう。
 また、この取引に気づいた役員等も何ら報告をしなかったということも内部統制が機能していなかったということでしょう。
 これは、明らかに『内部統制の限界』が露呈した1件です。

4.オリンパス
 こちらも新聞記事等によりますと、3社を買収する際に、多額の報酬を支払っていること、1年も経たないうちに多額の減損処理を行なっておりそもそもの買収価額が高すぎたのではなかったと言われています。
 当然、どこかの企業を買収する際には、収先を探したり、財務デューデリジェンスを行ったり、株価算定を行ったりしますが、コストはかかります。
 しかしながら、第三者機関に株価算定をするにしろ、あくまで参考資料に過ぎず、会社が検討を行ったうえで最終的な判断は経営者が行うことになります。第三者機関を使えば良いというものではありません。
 今回の株価算定書を見ると、株価算定を1つの方法でしか行なっておらず、内部統制が機能していたとは思えません。

5.最後に
 数年前から、上場会社は、内部統制報告書というものを毎年提出することになっています。
 この報告書を提出する立場にあった方が、内部統制を無視しているようなこれらの件を目にすることは、公認会計士として寂しい限りです。
 もっと、内部統制の重要性のアナウンスが必要なのでしょうね。

2011年10月31日 國村 年

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事務所通信2011年9月

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2011年9月号 『組織再編成に係る行為計算否認』

 近年、合併などの組織再編は頻繁に行われています。
 
 2001年に導入された組織再編税制に関して、行為計算否認規定により否認されたケースはないと言われていましたが、最近は税務調査が厳しくなってきており、否認されたケースもあるようです。

 今回は、『組織再編成に係る行為計算否認』をテーマに書きたいと思います。

1.『行為計算否認』とは
 『行為計算否認』とは、「租税負担を不当に減少させる結果」となる行為計算が行われた場合、課税庁が現実に行われた行為計算を想定される「通常の行為計算に引き直して課税する」ことをいいます。

2.『組織再編成に係る行為計算否認』
 組織再編成に係る行為計算否認は法人税法132条の2に規定されていますが、税務署長は、合併等に係る法人の法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合に、

  • 合併等により移転する資産及び負債の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加
  • 法人税の額から控除する金額の増加
  • 法人の株式(出資を含む。)の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加
  • みなし配当金額の減少
  • その他事由により法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの

があるとき、否認する可能性があります。

 具体的には、立法時の資料に以下のようなものが挙げられています。

  • 繰越欠損金や含み損のある会社を買収し、それらを利用するために組織再編成を行う。
  • 複数の組織再編成を段階的に組み合わせることにより、課税なしに、実質的な法人の資産譲渡や株主の株式譲渡を行う。
  • 相手先の税額控除枠や各種実績率を利用する目的で、組織再編成を行う。
  • 株式評価損を計上したり、株価を下げるために会社分割等を行う。

3.Y社の事例
 Y社が『組織再編成に係る行為計算否認』規定により否認され、提訴しているようですが、時系列は、以下のとおりです。

H20.12 Y社の社長がA社の副社長に就任
H21.2 Y社がA社を100%子会社化
H21.3 Y社がA社を吸収合併

 買収価格に繰越欠損金の引継ぎによる節税効果が織り込まれていたなどの理由で、ヤフーの社長がA社の副社長に就任したのは、繰越欠損金の引継ぎの要件を満たすための形式的なものに過ぎないと、法人税法132の2を適用し、繰越欠損金の引継ぎを否認したようです。

 副社長に就任してから何もしていなかったなど形式的に副社長になったにすぎないのであれば否認されるべきかもしれませんが、実態はどうだったのでしょうか。

4.最後に
 組織再編については、税理士等を交え、慎重な検討がなされ、税制適格の要件は当然満たしていると考えられます。
 
 しかしながら、個々のスキームは問題ないとしても、スキーム全体で考えると、単なる租税回避スキームにすぎない可能性があります。

 木を見て森を見ずにならないようにしたいものです。

2011年9月29日 國村 年

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事務所通信2011年8月

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2011年8月号 『LCCから学ぶゼロからの構築』

 我が香川県高松市の高松空港に7月半ばから格安航空会社(LCC)が就航しています。
最も安い席はなんと3,000円であり、1か月の平均搭乗率は86%を超えており、順調な滑り出しのようです。

 今回は『LCCから学ぶゼロからの構築』をテーマに書きたいと思います。

1.LCCとは
 LCCとは、格安航空会社のことであり、ローコストキャリアのことをいう。

2.日本におけるLCC
 日本においては、現在、海外の航空会社数社が就航している。
 国内航空会社もこれを指をくわえて傍観しているわけではなく、全日本運輸(ANA)や日本航空(JAL)も、海外のLCCと組んで参入することを公表している。
 LCCが増加すると、既存の顧客がLCCに流れていくことが想定されるため積極的には参入したくないようであるが、LCCの成長を見ていると参入せざるをえないのであろう。

3.LCCのコスト削減
 LCCは通常の航空会社と比べてかなり安いので、当然コスト削減、別の収益源が必要となってくる。

 航空会社によって異なるようであるが、内部的には、以下のようなもの挙げられる。

  • 着陸料の安い地方の空港を利用する。
  • 機種をしぼる。
  • スペースを狭くすることで、座席数を増やす。立席も作ったりする。
  • 整備を外部に委託する。
  • 乗務員が清掃を行う。
  • 乗務員に制服・靴・バッグなどを有償で支給する。
  • 訓練にコストがかかるため、他社で資格を取った人を採用したり、訓練を有償としたりする。
  • 機体や機内に広告を入れる。

 一方、対顧客では、以下のようなものが挙げられる。

  • 機内食やドリンクを有償にする。
  • 荷物を有償にする。
  • 新聞や雑誌を置かない。
  • 毛布を有償にする。
  • 座席を位置により価格差を設ける。
  • 座席指定を有償にする。
  • 旅行代理店を用いず、コールセンターも持たず、インターネット予約のみとする。
  • マイレージなど他社とのアライアンスは組まない。

4.LCCから学ぶゼロからの構築
 上記のようなコスト削減は、既存のものを削っていく発想では生まれてこないようなものが多い。
 今までの航空会社では、航空会社の人間にとっても、顧客にとっても、あって当たり前、無償で当たり前と思っているものが多い。
 このようなものは、既存の発想は捨て、ゼロから構築しかないとなかなか困難であろう。引き算ではなく、積み上げが必要となる。
 そうなると、日本の航空会社が単独で始めるのは無理で、海外のLCCと組むのは当然の結果であろう。

5.最後に
 LCCは通常の航空会社の顧客を奪うことになると考えられるが、他の移動手段からのシフト、今まで高価という理由で旅行に行っていなかった人の取り込みも可能となるであろう。
 ビジネスは、既存の発想を一切捨ててゼロから構築していくということが非常に重要である。

2011年8月19日 國村 年

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2011年7月号 『フィットネスクラブの現状と将来』

 先月末に約4年間の東京生活から、実家のある香川県高松市に戻り、今月から國村公認会計士事務所を開設しました。
 東京に行く前に1年ほど通っていたフィットネスクラブに今回復帰したこと、健康産業は将来性があると考えていることもあり、趣味的な話しになりますが、記念すべき第1号は『フィットネスクラブの現状と将来』について書きたいと思います。

1.最近のフィットネスクラブの現状
 新聞記事によると、最近、会員の高齢化が進んでいるとのことである。具体的には、20代・30代の女性の会員が減っているようである。理由としては以下のようなことが考えられる。
 ●少子高齢化が進んでいる
 ●景気が低迷し所得が減少している
 ●設備が多すぎて会費分だけ使いこなせていない
 ●ある程度の期間続けられた人は継続的に通い続ける傾向があるので必然的に時の経過と共に年齢が上昇する

2.フィットネスクラブ退会者の行方
 退会した方はどこに行っているのだろうか。
 運動自体をやめる人もいるだろうが、プールとかスタジオとかで色々なプログラムをやっているフィットネスクラブではなく、ピラティスや(ホット)ヨガなどの専門的なところに行っているようである。
 また、少し前からブームのランニングや山登りに流れているのかもしれない。

3.フィットネスクラブの将来
 20代・30代の女性が減少しているからといって、業界全体の会員数はここ数年横ばいのようである。一方、50代以上の会員数は増加しているようである。
 これは、有料の個別指導など高齢者向けサービスを増加させていることが要因とのことである。
 景気動向に左右される面もあろうが、健康・ダイエットへの興味はいつの時代もなくなることはないであろうから、少子高齢化も考慮すると、高齢者の会員割合が上昇し、平均年齢は上昇していくであろう。

4.フィットネスクラブの新規事業
 最近は、介護予防事業(お年寄りが要介護や要支援になるのを水際で防ぐこと)を強化しているようである。
 会員数が横ばいの中、介護予防プログラムに参加してもらい、会員の獲得につなげたいのであろう。

5.最後に
 東京に行く前の現在のフィットネスクラブ、東京のフィットネスクラブは20代・30代の会員も多かったが、東京から帰ってきて以前通っていたフィットネスクラブに復帰した時に最も感じたことは、若い人がかなり少なくなったということであった。
 東京に住んでいる時にいくつかのフィットネスクラブに行ってみたが、会費が高いところほど平均年齢が高いように感じた。よって、景気が悪くなれば会費の安いところに若い人は流れるのかもしれない。
 経営者側も差別化のためには、現在通っているフィットネスクラブのように、岩盤浴やサークルや変わったレッスンなど、他店との違いを打ち出すことが必要であろう。
 早く景気が回復して、若い人が増えて活性化し、健康増進にもなり、医療費が減少すれば良いと切に願う。

2011年7月20日 國村 年