事務所通信2014年5月

事務所通信

2014年5月号 『繰延税金資産』

 私は、2012年10月から、香川大学大学院地域マネジメント研究科(香川大学ビジネススクール)の教員になり、大学院生や大学生の会計の授業を担当しています。
 減価償却もそうですが、授業の中で、説明がなかなか難しく、理解してもらうのに苦労するものの一つが、税効果会計であり、その中の『繰延税金資産』です。
 そこで、今回は『繰延税金資産』について書きたいと思います。

1.繰延税金資産とは?
 ご存じない方が想像以上に多いのが、会計と税務の取り扱いは必ずしも同じではないということであり、この会計と税務の取り扱いの違いを埋めるための仕組みが税効果会計です。
 例えば、企業の業績が悪化し、リストラに踏み切る場合、貸倒引当金や固定資産の評価損などを計上することが多くなります。
 この場合、会計上は損失として処理できても、税務上は損金として認められないケースがあるのです。
 そこで、ざっくりと言うと、会計上は、税金を前払いしたものとして、税金相当額を『繰延税金資産』として計上するのです。
 ただし、すべてが税金の前払いとして認められるわけではなく、将来、税務上の所得が発生することが前提となります。

2.最近の傾向
 最近は、『繰延税金資産』を追加計上する企業が増えているようです。
 2014年3月期は、マツダやセイコーエプソンなど865社が『繰延税金資産』を積み増し、純利益が大きく改善したようです。
 『繰延税金資産』の積み増しは将来に渡り、企業が安定的に黒字を出せることを監査法人が認めたことを表すとも言えます。
 日本経済新聞社が、金融などを除く3月期決算企業で比較可能な1,701社を対象に集計したところ、2014年3月期決算で『繰延税金資産』が前期より増えたのは865社とほぼ半分を占め、前期から約3割増えています。
 『繰延税金資産』が税金の前払いという性格上、将来の税務上の所得の発生が前提となりますので、業績の回復により将来の税務上の所得が増加すると予想され、会計上『繰延税金資産』を積み増すと、純利益を押し上げる効果があるのです。
 業績が回復し、過去に赤字を出した企業が『繰延税金資産』を再計上するケースは今後も続きそうで、構造改革を進めたパナソニックは、今期に1,200億円の『繰延税金資産』の計上を見込んでいるようです。
 また、東日本大震災に関連して2013年3月期に300億円強の『繰延税金資産』を取り崩したコスモ石油は、早期に同資産を再計上することを経営課題の一つにしており、監査法人の厳しい審査をクリアして『繰延税金資産』を計上できれば財務や収益体質の改善を市場にアピールできると考えているようです。

3.最後に
 『繰延税金資産』は将来の税務上の所得の発生が前提となるため、監査人としては、非常に判断が難しいところがあります。
 業績が回復し、積み増すことになるのは喜ばしいことですが、将来、業績が悪化し、『繰延税金資産』を取り崩すことになると、ダブルパンチで赤字が増えますので、監査人の慎重な判断を期待したいですね。

2014年5月29日 國村 年

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