事務所通信
2013年1月号 『平成25年度税制改正~相続税・贈与税編~』
平成25年1月24日に、平成25年度税制改正大綱が公表されました。そして、平成25年1月29日に閣議決定されました。
わが国の経済は、円高・デフレ不況が長引いていますが、これまでのいわば「縮小均衡の分配政策」から、「成長と富の創出の好循環」へと転換させ「強い経済」を取り戻すことに全力で取り組まなければなりません。この断固たる決意のもとに、平成25 年度税制改正においては、従来型の発想にとらわれず、民間投資や雇用を喚起し持続的成長を可能とする成長戦略に基づく、政策税制措置をこれまでになく大胆に講じたようです。
様々な改正が織り込まれていますが、その中で、相続税・贈与税について興味を持たれている方が多いのではないでしょうか。
そこで、今回は、『平成25年度税制改正~相続税・贈与税編~』について書きたいと思います。
1.相続税の基礎控除の見直し(H27/1~)
現 行 | 改正案 | |
---|---|---|
定額控除 | 5,000万円 | 3,000万円 |
法定相続人比例控除 | 1,000万円×法定相続人数 | 600万円×法定相続人数 |
つまり、現行の6割に縮小するため、相続税が課税される方が増加するということです。
2.相続税の税率構造の見直し(H27/1~)
現行税率 | 現行控除額 | 改正案税率 | 改正案控除額 | |
---|---|---|---|---|
1,000万円以下の金額 | 10% | ― | 10% | ― |
3,000万円 〃 | 15% | 50万円 | 15% | 50万円 |
5,000万円 〃 | 20% | 200万円 | 20% | 200万円 |
1億円 〃 | 30% | 700万円 | 30% | 700万円 |
2億円 〃 | 40% | 1,700万円 | 40% | 1,700万円 |
3億円 〃 | 40% | 1,700万円 | 45% | 2,700万円 |
6億円 〃 | 50% | 4,700万円 | 50% | 4,200万円 |
6億円超の金額 | 50% | 4,700万円 | 55% | 7,200万円 |
つまり、高額になると増税になるということです。
3.相続時精算課税制度の対象外の贈与財産に係る贈与税の税率構造の見直し(H27/1~)
以下の2つに分けて適用されます。
ア.20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた財産
イ.ア以外の贈与財産
現 行 税 率 |
現 行 控除額 |
改正案ア 税 率 |
改正案ア 控除額 |
改正案イ 税 率 |
改正案イ 控除額 |
|
---|---|---|---|---|---|---|
200万円以下の金額 | 10% | ― | 10% | ― | 10% | ― |
300万円〃 | 15% | 10万円 | 15% | 10万円 | 15% | 10万円 |
400万円〃 | 20% | 25万円 | 15% | 10万円 | 20% | 25万円 |
600万円〃 | 30% | 65万円 | 20% | 30万円 | 30% | 65万円 |
1,000万〃 | 40% | 125万円 | 30% | 90万円 | 40% | 125万円 |
1,500万〃 | 50% | 225万円 | 40% | 190万円 | 45% | 175万円 |
3,000万〃 | 50% | 225万円 | 45% | 265万円 | 50% | 250万円 |
4,500万〃 | 50% | 225万円 | 50% | 415万円 | 55% | 400万円 |
4,500万円超の金額 | 50% | 225万円 | 55% | 640万円 | 55% | 400万円 |
つまり、税率が下がるところと上がるところがあるということです。
分岐点は、アの場合は8,410万円、イの場合は3,610万円となっています。
4.相続時精算課税制度の適用要件の見直し(H27/1~)
- 受贈者の範囲に、20 歳以上である孫(現行 推定相続人のみ)が追加されます。
- 贈与者の年齢要件を60 歳以上(現行 65 歳以上)に引き下げます。
つまり、要件が緩和されるということです。
5.小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の見直し(アとイはH27/1~、ウとエはH26/1~)
ア.特定居住用宅地等に係る特例の適用対象面積を330 ㎡(現行 240 ㎡)までの部分に拡充します。
イ.特例の対象として選択する宅地等のすべてが特定事業用等宅地等及び特定居住用宅地等である場合には、それぞれの適用対象面積まで適用可能とします。なお、貸付事業用宅地等を選択する場合における適用対象面積の計算については、現行どおり、調整を行うこととします。
ウ.一棟の二世帯住宅で構造上区分のあるものについて、被相続人及びその親族が各独立部分に居住していた場合には、その親族が相続または遺贈により取得したその敷地の用に供されていた宅地等のうち、被相続人及びその親族が居住していた部分に対応する部分を特例の対象とします。
エ.老人ホームに入所したことにより被相続人の居住の用に供されなくなった家屋の敷地の用に供されていた宅地等は、以下の要件が満たされる場合に限り、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていたものとして特例を適用します。
- 被相続人に介護が必要なため入所したものであること。
- 当該家屋が貸付け等の用途に供されていないこと。
つまり、面積が拡充され、併用が可能になり、一棟の二世帯住宅の被相続人の居住していた部分だけではなくその親族が居住していた部分も対象となり、老人ホームに入所していても一定の要件を満たせば適用できるということです。
6.教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置(H25/4/1~H27/12/31)
受贈者(30歳未満の者に限る。)の教育資金に充てるためにその直系尊属が金銭等を拠出し、金融機関(信託会社(信託銀行を含む。)、銀行及び金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者に限る。)をいう。)に信託等をした場合には、信託受益権の価額または拠出された金銭等の額のうち受贈者1人につき1,500万円(学校等以外の者に支払われる金銭については、500万円を限度とする。)までの金額に相当する部分の価額については、平成25年4月1日から平成27年12月31日までの間に拠出されるものに限り、贈与税を課さないこととします。
なお、教育資金とは、文部科学大臣が定める以下の金銭をいいます。
- 学校等に支払われる入学金その他の金銭
- 学校等以外の者に支払われる金銭のうち一定のもの
つまり、従来も授業料などの贈与については贈与税は非課税でしたが、一括して贈与しても贈与税が非課税となるということです。
7.最後に
改正されなかった平成23年度税制改正大綱に取り上げられていたもののうち、今回改正とならなかったものがあります。それは、死亡保険金に係る非課税限度(生計を一にしていた者)です。
一方、取り上げられていなかったもののうち、今回改正になったものがあります。それは、5. 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の見直しと6. 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置です。
税制改正を考慮のうえ、財産等を洗い出したうえ、適用時期を確認し、『争族』とならないような望ましい対応を行うことが必要ですね。
2013年1月30日 國村 年